野田秀樹『エッグ/MIWA』(新潮社)書評(2015年1月「新潮」に寄稿)
野田秀樹の戯曲は、「昭和も遠くなりにけり」なんて呑気なことを呟く輩に鋭い切っ先を向けてくる。
豊﨑由美
2026.08.09
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野田秀樹が2000年に上梓した『20世紀最後の戯曲集』(新潮社)の中に収められている『パンドラの鐘』のこの台詞が今も忘れられない。〈大きな穴を掘って、この鐘を埋めるの。私と一緒に、もうひとつの太陽を爆発させる術も息絶える。ミズヲ、(中略)埋めるのがお前の仕事。そして埋められるのが、滅びる前の日の王の最後の仕事よ。これができないものは、葬式王なんて名乗ってはいけない。それができないものは、滅びる前の日に女王などと呼ばせてはいけない〉
太平洋戦争開戦前夜の長崎。遺跡発掘が行われている現場で、考古学者の助手オズは想像力によって数々の発掘物から歴史の闇に葬り去られていた古代王国の姿を鮮やかに蘇らせていく。それは、兄の狂王を幽閉し王位を継いだヒメ女と葬式王ミズヲの物語。ミズヲが異国で掘り出してヒメ女に捧げた巨大な鐘の謎をめぐって、2つの時間、2つの空間が重なっていくこの作品で、野田秀樹は先の台詞に続けて、ヒメ女にこう言い放たせているのだ。〈埋めてさしあげて、私を〉と。