池上永一『黙示録』(角川文庫)解説 2017年4月
池上永一は、不変と進化を共に持ち合わせた作家だ。
神様のお告げでユタ(巫女)になれと命ぜられた十九歳のヒロイン・綾乃が「ワジワジーッ(不愉快だわーっ、イライラするわーっ)」と抵抗しつつも、ユタとして成長していくさまを描き、第六回日本ファンタジーノベル大賞を受賞したデビュー作『パガージマヌパナス──わが島のはなし』。
二二八年も前からマブイ(魂)だけの身となって島を彷徨う盲目の美女・ピシャーマと、少年・武志の淡い恋を縦糸に、神事をおろそかにしたせいで危急存亡の秋を迎えつつある石垣島の一大事を横糸に織り上げた、壮大にしてコミカルなファンタジー『風車祭』。
アジアの要である沖縄本島を舞台に、ウチナンチューと外国人との混血アメレジアンの少女・デニスが、世界規模の秘密結社の陰謀を阻止するまでを、沖縄の神話やアメリカのアジア戦略、基地問題、キリスト教の異端思想などを盛りこんで描いたSF『レキオス』。
強い呪力を持った産婆のオバァから「アンマー・クートー・ターガン・ンダン(母親以外は誰も見ない)」というまじないをかけられてしまった、生まれたばかりの息子を救うために、最終的には文明の起点の謎にまで迫る勢いの冒険と戦いに挑む未婚の母を主人公にした『夏化粧』。
女性には許されない学問への憧れを諦めきれず、跡継ぎである兄の失踪を機に宦官・孫寧温を名乗り、超難関の科試に合格。王府の役人として異例の出世を遂げていく少女・真鶴の八面六臂にして破天荒な活躍を、十九世紀、薩摩と清国の支配の狭間で揺れ動き、近代化の波押し寄せる琉球王朝末期を背景に描いて、ドラマ化や映画化もされた『テンペスト』。その外伝的役割を果たす連作短篇集『トロイメライ』。
池上永一はデビュー以来、ほとんどの作品で、神話や神事、古事を織りこんだ物語で琉球の魂を描き続けている、不変の作家なのだ。さかのぼること十五年前にインタビューした折、池上は自分のことを「何かに書かされている」「物語が降りてくる」タイプの小説家であり、「時速一六五kmの剛速球をバックネットにのめり込ませたい」という気持ちで書いていると語ってくれた。「いざ物語が降りてくれば寝食を忘れ、ぶっ倒れるまで書き続けてしまう」。そんな一作入魂の執筆姿勢もまた不変であることは、二十三年間で十二冊という作品数の少なさと、それぞれの小説のクオリティの高さが証明していると思う。
そして、進化のほうを証明するのが、この『黙示録』なのである。