なぜ、わたしは本を読むのか

想像力こそが、読書がわたしたちに贈ってくれるギフト(2016年10月「図書実験室」に寄稿)
豊﨑由美 2026.07.02
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「本なんか読まなくたって死にゃしない」

 おっしゃるとおり。本を読まなくても、自分は死んだりしません。でも、そのせいで、誰かを傷つけたり殺したりする可能性はあるんです。ためしに、ジョージ・ソーンダーズの『短くて恐ろしいフィルの時代』(河出文庫)を読んでみてください。

〈《内ホーナー国》の小ささときたら、国民が一度の一人しか入れなくて、残りの六人は《内ホーナー国》を取り囲んでいる《外ホーナー国》の領土内に小さくなって立ち、自分の国に住む順番を待っていなければならないほどだった〉

 そんな哀れな境遇の内ホーナー人に、国土の縮小化というさらなる不幸が襲います。結果、体が外ホーナー国側にはみだしてしまい、フィルという底意地の悪い外ホーナー人の主張によって、税金を取られることに。

 機械と有機体が複雑に合体してできあがっている風貌のホーナー人の中でも、フィルはとりわけ変わっていて、脳が巨大なスライド・ラックにボルトで固定されているんですけど、それが時々はずれては勢いよく地面に落ちてしまいます。そんな時のフィルはとても危険。熱狂的な口調によって民衆を煽り立てるデマゴーグと化してしまうからです。やがて独裁者然とふるまうようになったフィルは、払うお金がなくなった内ホーナー人から小さなリンゴの木、小川、土、洋服まで奪い、さらには──。

 以上の粗筋を読んだだけでも、『短くて恐ろしいフィルの時代』が、ナチスやスターリニズム、南アフリカのアパルトヘイト、ジェノサイドの謂(いい)だということがわかりますよね。でも、ここに描かれているのはそんな直接的な寓意だけじゃないんです。

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