宇月原晴明『かがやく月の宮』(新潮社 Kindle)書評
織田信長は両性具有だったという綺想によって、さまざまな虚構化がなされている日本の戦国武将と、トランスジェンダーだったことで知られるローマ皇帝ヘリオガバルス、その評伝小説を書いたアントナン・アルトーを、ナチス台頭期のベルリンで結びつける『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュノス』(新潮文庫)によって第十一回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。源平合戦の壇ノ浦の戦いにおいて、祖母・二位の尼とともに入水した幼い安徳帝と源実朝、クビライ・カーンの耳目となり見聞を広げている巡遣使マルコ・ポーロ、大元帝国によって滅ぼされた南宋の幼帝、皇太子を廃された後、はるか天竺までおもむいた等たくさんの伝説に彩られた高丘親王を結びつけ、最後には、イザナギノミコトとイザナミノミコトの幼子なのに間違った作法で作られたため葦の舟に乗せて流されてしまった水蛭子伝説にまでつなげてしまう、壮大かつ流麗な幻想歴史小説『安徳天皇漂海記』(中公文庫)で第十九回山本周五郎賞を受賞。
史実を綺想でくるむことで、正史が黙して語らなかった、あり得たかもしれないひとつの“真実”を明らかにする作品を発表してきた作家が宇月原晴明だ。その六年ぶりとなる新刊『かがやく月の宮』(新潮社)がターゲットにしているのが、誰もが概要だけは知っている『竹取物語』。竹の中から生まれて、求婚者たちに無理難題をふっかけ、最終的には月に帰ってしまうかぐや姫の物語は、この小説が出たちょうど同じ頃に公開された高畑勲監督によるアニメ映画では、男たちの無神経な視線に苦しみ、自分らしく伸び伸び生きることも許されない若い女性というジェンダー問題の面に焦点を当てていたけれど、宇月原版『竹取物語』においてヒロインは後景に退いている。