西村賢太『疒の歌』(新潮文庫)書評

私小説家・西村賢太の誕生を予言する内容になっている重要な作品(2014年8月「すばる」に寄稿)
豊﨑由美 2026.04.21
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 賢太の小説を読むという行為は、いわば作家の分身たる北町貫多の人生のピースを未完成のジグソーパズルにはめていく作業に似ていて、マニアに近い読者のわたしなぞは暇を見つけて貫多年表を作りたいと思うほどなのだけれど、著者初の長篇小説となる『疒の歌』で埋まるピースは昭和六十一年、十九歳の時のエピソードである。十五歳で一人暮らしを始めた貫多が、無軌道な生活を何とか修正しようという殊勝な心持ちで、横浜方面に居を探す場面からこの小説は滑り出す。実際、希望していた桜木町駅からはずいぶん遠いものの、ぎりぎり払えそうな賃料の部屋を借りると、長期働くことも可能な造園会社でのアルバイトも決め、それまでにはなかったような勤勉さを貫多は披露するのだ。

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