ガチャピンのジャンプ(「Number」1998年4月9日号)

万能型天才アスリート・ガチャピンが長野オリンピックの年、ついにジャンプに挑戦。ガチャピンの独占インタビューが読めるのはここだけ(笑)。
豊﨑由美 2026.02.17
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 サーフィン、フリークライミング、スカイダイビング、ボブスレーetc.etc. さまざまなスポーツをこなし、サッカーのミニゲームではJリーガーまで負かしてしまう驚異のアスリート! しかして、その正体は――。

 身長165cm・体重80kg、5歳の恐竜の子供なのである。そう、フジテレビの人気子供番組『ポンキッキーズ』でおなじみのガチャピンだ。

 なんだそうですよ、奥さん。しかし、どうなんだろね。不思議だね。『ポンキッキーズ』って『ひらけ! ポンキッキ』だった頃から数えると、25年続いてる(この原稿を書いたのは1998年)ご長寿番組でしょ。なのに、なんでまだ5歳なんだかね。……おっかしーじゃねえかよおぉっ。

「大人げないんだから、もお。犬猫が人間の何倍も年をとるのが速いのと逆で、恐竜はデカいから年をとるのが遅いんですよ、きっと」

 編集担当青年ユズエの苦しい弁明に一応うなずいてはみるものの、わたくしの疑心暗鬼はガチャピンに対してだけではおさまらない。相棒のムック、ありゃなんだい。モップの化け物かい。頭のてっぺんについてるタケコプターみたいな代物で空でも飛ぶのかい。飛んでもらおうじゃねえかよおぉっ。

「ムックはね、ガチャピンと同じく5歳で雪男の子供なんです。寒い島で生まれたムックは暑くなると体が弱るでしょ。そんな時、あのプロペラを回して体を冷やすんですよ」

 26歳の若僧ユズエは『ひらけ! ポンキッキ』世代だけあって、ガチャピン&ムックのプロフィールについてかなり詳しい。そういえばオレだって『木馬座アワー』(1966年~1970年)の人気者ケロヨンについてはかなり詳しい。幼児の頃は誰だって、あの手の番組に出てくるキャラクターには夢中になるもんだ。

 ま、憎まれ口をたたいておきながら何ですが、長らくキャラクター界のアイドルの座に君臨し続けてきたガチャピンが、折りに触れては番組内でスポーツや冒険にチャレンジしている勇姿は、わたしだってたまには目撃してはいたのだ。で、実は感心もしていたわけで。特に耐久レース! あの凄まじく短い足でバイクにまたがり、ミトンのような手でハンドル操作できただけでも事件だっつーのに、プロさながらのタイトな走りまで見せつけられた日にゃあ、ねえ。そのガチャピンが今度はスキーのジャンプに挑戦するという。とうとう飛ぶか、ガチャピン。飛べるのか、ガチャピン。

 そんなわけで3月15日、新潟県の小出スキー場に馳せ参じた我々だったんである。小中高生と一般を対象にした「第21回小出飛躍大会」。ガチャピンはフジテレビにちなんだゼッケン88をつけて、この大会に参加するのだ。天候はあいにく雨まじりの雪。開会式の始まりを立ちつくして待っている間にも、降りしきる雪が頭に肩に積もり積もっていき、寒いっ。寒い寒い寒いっ! オレは笠地蔵かっ。

 しかし、こんな悪天候にもかかわらず「ガチャピンとムックが来る」という噂でわらわらと集まってきたのが近隣の母子たちだ。でもって、開会式に参加するために選手控え室から出てきたガチャピン&ムックに、奇声を上げながら突進。幾十もの小さな手で叩かれてよろけるガチャピン。モップみたいな毛をひっぱられて目を回すムック。騒動に困惑気味の選手たち。「観覧の方は下がって下さい」と大声を張り上げる大会関係者。

ようやくのことで事態の収拾がついた後も、式典が進む間には、ガチャピン&ムックを取り囲む野次馬の輪はジワリジワリと狭まっていく。挙げ句、いたいけな5歳の恐竜&雪男は開会式が終わるや否や会場を逃げまどうはめになり、暴徒と化した母子たちの愛の押しくらまんじゅう攻撃にさらされてしまったのである。

さて、競技のほうは小学生、中学生、高校生の部と進んで、いよいよ一般の部へ。ガチャピンの登場だ。ヘルメット&ゴーグルという出で立ちのガチャピンが姿を現すやなんとさっきまで降りしきっていた雪が止み、厚い雲間からお日様までが顔をのぞかせるではないか。さすがはスター。このスターの威光をもってすれば、練習では着地に失敗してしまったが、本番では必ずや美しいテレマークを決めてくれるにちがいない。リフトに向かう、超短足ゆえのヨタヨタした足取りに一抹の不安を覚えながらも、成功を信じてやまないわたくしだったのである。

つい先日まで長野オリンピックの立派な施設を見慣れていた目には、貧相に映ってしまうここ小出の50m級ジャンプ台ではあるが、ガチャピンについててっぺんまで上がってみると、そこから眺める地上の光景はやはり怖ろしい。コースがずいぶん細く見えて、ちょっと横風が吹いただけで逸脱してしまいそうな恐怖感を抱く高さなのだ。今にして、ようやくわかる原田雅彦選手の「足を折ってもいいから飛びたかった」というK点越えジャンプの価値、なんである。

ガチャピンはというと、しかし、さすがはスター。高さと角度にビビる36歳のわたしなんかとちがって、たった5歳にもかかわらずスタート脇で飛び出しの姿勢チェックに余念が無い。そして、「ガチャピーン、がんばってえー」という小さなファンたちの大きな声援を受け、両のこぶしを叩きあわせて気合一発、本番ジャンプに挑んだのであるが――。

すげえぇー、あのコ×ドームみたいな形をした緑の物体が宙に浮かんでるよっ。眼下に見えるミニチュアの世界に向かって、グングン飛んでいくよっ。しかも、ちゃんとV字でっ! 飛距離は31mと中学生レベルにとどまったけれど、ガチャピンはまだ5歳なんである。まさにアンファン・テリブル。末恐ろしい5歳児ではないか。

ところで、応援専門のムックはどうしたんだい。その時、突風とともに一天にわかにかき曇り、フリーザーの中味をぶちまけたかのように激しいアラレが! なんと、飛び終えたガチャピンの労をねぎらうためにムックが観衆のまっただ中に飛び出してきた途端、天候が崩れたのである。さすがは雪男の末裔! でも、すっげえ迷惑。そんな本領は発揮してほしくないんである。

2度目のジャンプは飛距離こそ31mと変わらずだったものの、飛型点は最高点をマークしたガチャピン。総合成績は一般の部の参加者24人中19位に終わったけれど、無事飛べただけでも立派なもんだ。ムックの大迷惑な雪男ぶりのせいか、激しい雪と冷たい風に見舞われた閉会式で参加賞の賞状をもらって喜ぶガチャピンの姿を見ながら、惜しみない拍手を送るわたくしなんではありました、と。

さて、全国の良い子の大人の皆さん、お待ちかねのガチャピン独占インタビューだよ。競技を終えたばかりのガチャピン君に、早速マイクを向けてみようね。

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