西村賢太『歪んだ忌日』(新潮文庫)

西村賢太作品評で意外に見落とされている「根が~にできてる」というフレーズに注目して書いた書評です(2013年7月、「文學界」に寄稿)
豊﨑由美 2026.03.25
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 西村賢太の私小説に頻出する言葉といえば、「慊い」「結句」「ほき捨てる」などが挙がるわけだが、意外に見過ごされているのが「根が~にできてる」というフレーズではないか。

 で、だいたいにおいて、「根が~にできてる」などと頻繁に自己申告する人間は信用できない。たとえマイナスイメージを伴う申告内容であっても、その卑下をまともに受け取るべきではない。「たしかにね」と肯定しようものなら、大変な怒りや恨みをかうこと必定であることは、賢太の作品を読めばわかる。

 卑下する者はプライドが高い。マイナスの自己申告をしてそれ以上の批難を避けようとする者は小心者なのである。そうしたセルフイメージの申告にまつわる人間の愚かしさや情けなさを描いて、読む者に失笑や苦笑を生じせしめるのも、賢太作品のひとつの特徴なのだ。というわけで、最新作品集『歪んだ忌日』に収録されている六作品も「根が~」フレーズに注目してみたいと思うのである。

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