「三面記事探検隊がゆく」
骨折者も出た「体感アート庭園」の芸術度

世界のアラカワに「プアーなキミ」を連発されて三文ライター興奮。
「養老天命反転地」に魅了されるの巻(「週刊文春」1995年11月2日号掲載)
豊﨑由美 2025.09.12
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●元々の記事の要約

岐阜県が養老町の県立養老公園に4日オープンさせた体験型庭園「養老天命反転地」で、転倒による骨折などのけが人が続出し、同県は対応に頭を抱えている。世界的な現代芸術家、荒川修作さんの作品とあって、安全対策といえども簡単には手を入れられず、「当面は芸術性と安全面の兼ね合いを見極めるしかない」と困り顔だ。(中日新聞 10月10日付より)

「ま、今回はひとつ転んでいただくという方向で――」

 なんじゃ、そりゃ。ワシは隠れキリシタンかい。このコーナーの取材旅行にかこつけ、北海道でジンギスカンと生ビール、高知でカツオにポン酒という思惑のことごとくが実現せず、「週刊文春」への愛と忠誠心が日増しに薄れていく今日この頃。さかりのついたニホンザルのようにイラつくトヨザキに向かって、担当編集小僧アイウエオ君は「岐阜へ行って転べ」と指令。ホワ~イ?

「荒川修作って知ってますか。今はニューヨークに在住してる世界的な芸術家でしてね。一九六○年には赤瀨川原平やなんかとネオダダ集団を結成したりもしたんですよ。まあ、厚顔無恥無知なトヨザキさんは知らないかもそれませんけど、いわゆるコンセプチュアル・アートっていうか」

 シャラーップ! お黙んなさい、そこな小僧。こう見えても、若かりし頃は美術雑誌の編集をしていたこともあるんだいっ。わたしが頭の幼い大学を出てると思ってバカにしてやがるな、お前は。さかりのついたニホンザルから怒れる獅子へと変貌したトヨザキは、飛騨牛を喰いに、もとい、荒川氏がパートナーのマドリン・ギンズさんと構想した、転倒者続出で話題になっている公園を見に、一路岐阜県は養老町へと向かったのである。

「ここかね、小僧」

「ここですね、ライター様」

 広大な養老公園の一画に作られたアーティスティックなプロジェクト「養老天命反転地」は、さながら壊れた箱庭。全体がすり鉢状になっている上に、表面はうねっており、平坦な所は一箇所とてなく、設置されているものすべてが傾いているのである。

 自慢じゃないが、平衡感覚には自信がない。高校生の頃、体力測定でこの感覚に関しては「計測不能」とまで言われたわたしだ。「転べそうですか?」と水を向けるアイウエオ君の期待に満ちた眼差しに、つい応えてしまいそうで怖いじゃないか。

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