スティーヴン・キング『11/22/63』(文春文庫)
天下のキング様のケネディ暗殺を扱った大作にちょっとだけ物申しております。(2013年11月執筆)
豊﨑由美
2025.11.10
読者限定
まず、皆さんに訴えたいのは、上下巻併せて1000ページ超えのメガノベル、スティーヴン・キングの『11/22/63』がとても面白い小説だということです。しかし、疵がないというわけではありません。「キングの話題の長篇が訳された!」と興奮した脳を落ち着かせて、虚心坦懐に最後まで読み切った時、あるひとつの疑問「?」が、トヨザキの頭の上にぽっかり浮かぶのです。
語り手は、メイン州の小さな町で教師をしているジェイク。彼は、病気で死期の迫った友人アルから1958年に通じているタイムトンネルの存在を打ち明けられ、ケネディ暗殺を阻止してほしいと頼まれます。アルは自分でなし遂げるつもりだったのですが、重篤になってしまったゆえに断念せざるをえなくなり、ジェイクに使命を託すため帰ってきたというのです。このタイムトラベルにおける規則は以下の2点。過去でどんなに長い時間を過ごそうが、現在に戻れば2分間しかたっていない。もし暗殺阻止に失敗したとしても、2011年の現在に戻ってきて再度タイムトンネルにもぐれば、前回の時間旅行で起こしたすべてのことはリセットされる。歴史を変えろというアルの強い言葉に背中を押されて、ついにジェイクは過去へと向かいます。