劇評 NODA ・MAP番外公演『農業少女』

表向きはキレイな“物語”だって、ちょっと油断すると醜くて怖ろしいファシズムに堕しかねない。2000年の時点ですでに「今(2025年)ここにある危機」を描く舞台を上演していた野田秀樹に感服つかまつり候の巻。(「TV Taro」2000年12月号掲載)
豊﨑由美 2025.12.09
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 野田秀樹が真面目だ。

 天皇制問題に鋭く深く迫った『パンドラの鐘』、連合赤軍事件を題材にした『カノン』。野田秀樹がこの1年間に立ち上げた芝居のスケールの大きさと質の高さを思うと、寄る年波に負けて丸まりがちな背も真っ直ぐになるというものだが、その緊張感は番外公演『農業少女』においても持続されている。東京に憧れた少女と彼女を愛した中年男という、ナボコフの『ロリータ』風の物語枠の内に、ボランティアからファシズムまで気分でこなせてしまう“大衆”に対する懐疑と悪意と恐怖をしのばせた硬派な作品になっているのだ。

 九州の農家の娘・15歳の百子(深津絵里)は、ある朝、通学電車に乗ったまま東京に家出してしまう。そこで出会ったのがツツミ(松尾スズキ)と、その秘書(明星真由美)。電車に乗り合わせた毒草学者・ヤマモト(野田秀樹)の家に居候しながら、百子はツツミが仕掛ける捕鯨反対運動やボランティアといった怪しげな事業にのめりこんでいく。

 そんな百子を心配し、ツツミに嫉妬するヤマモト。やがて、無農薬農業の会を始めたツツミにそそのかされ、ウンコが無臭になるという触れ込みの米「農業少女」の生産に夢中になった百子は、しかし、ツツミの裏切りにあって精神を失調させていき――。

 以前、フランスW杯出場をかけ、日本代表が崖っぷちに立たされていたアジア最終予選の韓日戦(於ソウル)を、仕事絡みで観に行ったことがある。で、赤いヤッケを着ていたわたしは、代表応援団のメンバーから青いゴミ袋を渡され、それをかぶることを強制された。

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