岸本佐知子『なんらかの事情』(ちくま文庫)

淡々としたポーカーフェイスの文章だからこそ生まれる、えもいわれぬおかしみ。頭の中をのぞきたくなるような奇想の横溢。そんな中、ふいに立ち上がる美しくて叙情的な光景。唯一無二のエッセイの書き手が翻訳家の岸本さんなのです。( 2013年1月 「熊本日日新聞」に寄稿)
豊﨑由美 2025.12.17
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 岸本佐知子といえば、10歳でアメリカ文学史上に残る傑作を書いて11歳で死んでしまった天才少年の伝記を、幼なじみの少年が書くという奇抜な設定で知られるスティーヴン・ミルハウザーの『エドウィン・マルハウス』をはじめ、ヘンテコ面白い小説ばかり紹介する翻訳家として有名です。ニコルソン・ベイカー、ミランダ・ジュライ、ジャネット・ウィンターソン、リディア・デイヴィス、ショーン・タン──岸本さんが訳している作家にハズレなし。

 しかもっ! 岸本さんはエッセイストとしても、ヘンテコ面白い書き手なんです。第23回講談社エッセイ賞を受賞した『ねにもつタイプ』(ちくま文庫)。それはそれはスバカシイ(素晴らしくバカバカしい=トヨザキ最上級の褒め言葉)48篇が収められていて、もしも皆さんの中で、この本を最後までクスリともせず読み通せた方がいらしたら、わたくしまでご一報ください。最高の精神科医をご紹介しますので──そのくらい可笑しい48篇だと思ってほしいんです。

 51歳にもなって気がふれたのかと心配されそうですが、わたしは「求婚者が現れたら、岸本佐知子のエッセイを読ませてその反応を見る」と決めています。どんなにハンサムでも、どんなにお金持ちでも、反応が芳しくなかった場合、不遜ではありますが、このご縁なかったことにさせていただく──そのくらい、岸本さんのエッセイを相手の性格やセンスを占う指針にしているんであります。

 というわけで、皆さんとの相性も試させてください。

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