古川日出男『南無ロックンロール二十一部経』(河出書房新社)
ロールは流転であり、輪廻転生の謂いである。パラフレーズは置き換えであり、編曲である。すなわち、起こった出来事をパラフレーズすること。パラフレーズして、歴史をロールすること。それが、ロックンロールであるということ。
古川日出男の1000枚の大作『南無ロックンロール二十一部経』は、震災と人災がともに起きた1995年を、やはり震災と人災がともに起きた2011年3月11日以降の世界で語り直した、スケールにおいても内容においても方法論においても、メガトン級の“世界文学”なのである。構成自体は「第一の書」から「第七の書」までの中に、それぞれ「コーマW」「浄土前夜」「二十世紀」と題した3つの物語を内包して、シンプルでわかりやすい。でも、そのスッキリした構造のもと、それぞれに異なる語りの中で展開する物語は混沌としているのだ。
小説家の〈私〉が、昏睡状態にある女性を見舞って〈ロックンロールの物語〉をし続ける「コーマW」。
前世は『ロックンロール七部作』を書いた小説家だった〈僕〉が、白ホグレンの鶏→アムール虎→狐→馬頭人身→少女→77歳の老人へと転生していく「浄土前夜」。
6つの大陸とひとつの亜大陸、日本に蔓延していくロックンロールの物語を、小さな太陽と呼ばれた人物、食べる秘史列車、武闘派の皇子と呼ばれた人物、ディンゴと呼ばれた人物、その名が幾度もアップデートされていく一セントと呼ばれた男たち、牛の女と呼ばれた人物、日出男のパラフレーズ昇る太陽と呼ばれた人物らの時空を超えて自在に飛躍するエピソードで描き、旧作『ロックンロール七部作』を想起させる「二十世紀」。