ウラジーミル・ソローキン『青い脂』(河出書房新社)
ロシア文学界お歴々7体のパスティーシュが見事なケッサク歴史改変SF
豊﨑由美
2025.09.08
読者限定
〈私の重たい坊や、優しいごろつきくん、神々しく忌わしいトップ=ディレクトよ。お前のことを思い出すのは地獄の苦しみだ、リプス・老外(よそ者)、それは文字通り重いのだ〉。二○六八年、雪に閉ざされた東シベリアの遺伝子研18という施設で、ある実験にたずさわっている言語促進学者ボリス・グルーゲルが、若い彼氏に向けて書く手紙からはじまるソローキンの『青い脂』には、現代文学に親しんでいるつわもの読者でもぎょっとするにちがいない。だって、言葉がわかんないんだもん。ボリスが連発する〈リプス〉ってなに? なんで、しょっちゅう中国語らしき単語が入ってくるの? 〈ピンクの前立腺をしたアルビノ=モグラ〉ってどんな比喩だよ、などなどなどなど。
でも、リプス・大丈夫。